どこ置いた症候群
「ねぇ、俺の財布知らん?」「えぇ-、どこにやった。いつまであったの」。2人で手当たり次第に探す。 「あった」「本当にもう」。最近夫婦の間で増えた物忘れ、どこ置いた症候群。必要にかられるまで忘れ、あわてて探す始末。時には洗濯されボロボロになってポケットの中から見つかるものもあり、修復できるものならまだ良いが……。...
View Articleかけがえのない時
父は生きていれば今年100歳になる。父の若い日は戦争まっただ中。戦後は長男として、父祖の地で大家族を守った。 私が20代になったころ、父は休日になるといそいそと車を運転し、興味の赴くままあちこちへ出掛けた。それに素直に付いて行く娘を母は心配したが、私は3人兄妹の真ん中で初めて父を独り占めし、小さい子供のようにうれしかった。日ごろは笑わない厳格な父が、休日の外では笑っていた。...
View Articleななつ星ありがとう
ななつ星に会えた! 心にモヤモヤがあり、鉄橋のある延岡市の大瀬川堤防まで車を走らせる。一緒になった仲良しのKさんと、その時をわくわくしながら待つ。そして、いよいよ光り輝く雄姿が近付いてくる。 昔の乙女2人は、思い切り両手を振って「ななつ星~ありがとう」と叫ぶ。運転士さんが、高らかに警笛で応えてくださる。最後尾のお客様も、手を振ってくださった。一瞬だけど、笑顔と幸せをいっぱい頂き、涙まで出てきた。...
View Article平穏
若い頃には想像すらできなかった生活をしている。午前4時前に起き、午後7時過ぎに就寝する。四季に関係なく、このリズムで行動することが体に染み込んでいて、寒さも熱さも苦にならない。朝8㌔の散歩は欠かせないし、晩酌もしかりである。これは老人の特権のようなもので、頑なに守っている。...
View Articleはがきファイル
朝からの雨が小雨になった。取り立てて急ぐ用事もない。 はがきファイルでも見ようと寝転ぶ。愛犬の桃太郎の体温の何と暖かいことか。規則正しい呼吸を確かめる。雨の日はすぐに察知するようで、老犬ゆえゴロゴロしているが仕方がない。...
View Article娘へ
令和2年正月のことだ。娘が突然「古い車庫を壊してアパートを建てたい」と言ってきた。 車庫のある所は、私たちが初めて家庭を築いた場所だ。「他人の手に渡るより、生きた証になる」と賛成した。 やがて大型機械が運び込まれうなり声のような音で工事開始。5月の地鎮祭に襟を正して参列した。...
View Articleあるがままに
恩師や友人からの賀状が届かない。ひょっとして、いや忘れたのかも、と気にしながら1年が過ぎ、2年が……。 友人たちにこんな思いをさせないために書いてみた。「バイバイ、神のみ国で会いましょう」。私の死後、これを娘に投函してもらうのはどうだろう。 やめた。 尊敬していたI先生やT先生のように、愉快なトマトちゃんのように、帰郷の度に訪ねてくれた教え子の豊君のように、黙ってそっと消えていけばよい。...
View Article黒電話
「出てくれるはずもない人の部屋で私のベルが鳴る」との歌詞がある。知人は、実際にそれを体験したという。大好きだった祖母。病で逝ったが、なぜかその家の黒電話はそのままになっていた。幼いころから可愛がってくれたばあちゃん。泣き虫の自分をいつも慰めて全てを受け入れてくれた笑顔。...
View Article小糠踊 路地にぎわう
太鼓と三味線、笛のゆっくりした曲調のはやしに合わせた甚句調の音頭で「そーら、てっとーてん」の掛け声に合わせて踊る。上品な振り付けの中に優雅さを感じさせる踊りは岩国市の「小糠踊り」だ。 小糠踊りは国名勝・錦帯橋の創建前から踊り継がれてきた盆踊りだ。今は錦帯橋近くの城下町情緒の残る路地を練り歩き、見る人を楽しませる。しか、空白期間もあった。...
View Article訃報
Hさんの訃報を聞いたとき、「やはり」と思った。 Hさんは奥さまを亡くし永年の一人住まい。その上、東京に住む息子を新型コロナで失っていた。最近は、買い物のため外出するほかは、何をするでもなく、ぼんやりと過ごすことが多かった。 熱中症を心配して電話したことがあったが、そのときは「エアコンを入れているから」といつもの声が返ってきた。...
View Article筋肉貯金
毎朝誘い合ってウオーキングを始めて3カ月がたつ。渓谷沿いに往復7㌔、1万歩を目指して歩く。霜柱に驚き、氷柱を口に含んでは懐かしい子ども時代を思い出す。初冬、白い清楚なサツマイナモリに癒され、山肌に白く浮かぶ山桜に春の訪れを感じる。 今、イワツツジが彩を添え、一雨ごとに山の木々も芽吹いてすがすがしく、生命みなぎり満山春色。心新たに歩を進める。...
View Articleワクワク
寒波、そして台風に劣らない低気圧の発生で、あっという間に散ってしまった梅。代わって深紅の寒木瓜、白とピンクの先分けの木瓜が庭を華やかに。雪柳もびっしりのつぼみをほどき始めた。 庭をめぐりながらワクワクが止まらない。スマホで写して楽しんでいる。...
View Articleスイマー
最高齢の水泳記録保持者であり、100歳を超えてなおご活躍された女性が1月に亡くなられた。私は42歳で泳ぎを覚え、紆余曲折を経て今年からまた、泳ぎ始めた。クロールで1㌔を目指すも、彼女には到底及ばない。この先輩の偉業に勇気を頂き、心強くもあり励みになっている。...
View Article救急車
自宅が県立病院近くなので救急車のサイレンは毎日耳にする。先日、一方通行の先頭で赤信号のため停車していたところ遠くから「ピーポー」の音が近づいてきた。右か左か前方かと神経を集中しながら、ふとバックミラーを見ると、後ろに迫ってきていた。停車しているのは自分の1台でけで道幅は狭い。 とっさにハンドルを切り、左ギリギリに寄せる。体まで左寄りで見守っていると、徐行しながらスッと通り抜けていった。...
View Articleグランプリに竹之内さん
グランプリに竹之内さん ペンクラブ鹿児島 昨年のはがき随筆 「はがき随筆」など毎日新聞への投稿ファンでつくる毎日ペンクラブ鹿児島(高橋誠会長)は、会員による2020年のはがき随筆作品のグランプリに、鹿児島市の竹之内美知子さんの「金魚の親子雲」(4月23日掲載)を選んだ。準グランプリは鹿児島県鹿屋市の西尾フミ子さんの「ルリマツリ」(12月2日)に決めた。...
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