父は生きていれば今年100歳になる。父の若い日は戦争まっただ中。戦後は長男として、父祖の地で大家族を守った。 私が20代になったころ、父は休日になるといそいそと車を運転し、興味の赴くままあちこちへ出掛けた。それに素直に付いて行く娘を母は心配したが、私は3人兄妹の真ん中で初めて父を独り占めし、小さい子供のようにうれしかった。日ごろは笑わない厳格な父が、休日の外では笑っていた。 父は59歳で他界した。その生涯で一番心安らかだったのが、あの時だったのでは。私の数少ない親孝行だった。 宮崎県日南市 矢野博子(71) 2021/5/15 毎日新聞鹿児島版掲載
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