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Channel: はがき随筆・鹿児島
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明りは輝いて

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 宅配便でブドウが届いた。送り主は、主人が昔勤めた会社の寮母さん。早速仏壇にお供えした。一粒一粒、寮母さんの成熟した人生の深い味が舌に浸透した。
 お礼の電話をする。声は元気そうだが、両目を失明して日々不自由な暮らしだという。数分間の沈黙。受話器の手が震え、涙した。謙虚、誠実な人柄で、誰からも慕われていた。切ない。私の心は奈落の底に沈んだ。この世の生きざまはぜいたくにも美しく映え、誠に申し訳ない。心に深く念じたい。亡き夫は、ブドウは目がないほどの大好物だった。
  姶良市 堀美代子 2017/2/7 毎日新聞鹿児島版掲載

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