年間賞に野見山さん(熊本市)
毎日新聞「はがき随筆」の2020年熊本年間賞に、熊本市の野見山沙耶さん(20)の「手を握る」(9月20日) が選ばれた。 熊本県内から投稿され20年に月間賞・佳作となった計15点から、熊本大名誉教授の森正人さんが選考した。
書く営みで考えを確かに 隣国の新型コロナウイルス感染症のニュースで明けた2020年は、世界的な流行が収まらないまま暮れました。類を見ない速さで開発されたワクチンの接種が今のところ唯一の光明で、社会全体が不安と困難に閉ざされています。とりわけ医療・介護の現場で働いている方々の苦労は、並一通りではありますまい。 はがき随筆の話題も、この感染症に関するものが目につきました。一見無関係であるかのような作品にも、その影を感じることがたびたびありました。また、昨年は熊本県南部が大きな災害に見舞われました。さほど被 害のなかった地域で も、避難や後片付けに 心を砕いた所が多かったようで、その経験を 綴った作品も目に付き ました。投稿者のなかには太平洋戦争を経験された方々もあって、 終戦記念日、開戦記念日の前後には、戦時下を回想する作品にたびたび出会います。 それらは、選び取った一事をもって鮮烈に印象づけるものあり、深く静かに心にしみわたらせるものあり、それぞれに味わい深いものであったと思います。 月間賞3編、佳作2編のうちから、熊本県の年間賞に選んだのは、9月度月間賞の野見山沙耶さんの「手を握る」。随筆と呼ぶにはやや重いテーマかもしれませんが、人の命と心、それに医療という仕事に向き合う姿勢が真率に表現されていると感じました。しかも、書くという営みが考えを整理し、より深く確かなものにすることを如実に示す好例。 森 正人
体験から看護師志す 看護助手として働いていた病院でその男性は服のすそを引っ張り、筆談を求めてきた。身のまわりの世話で多多く接していた高齢の患者。専用のノートには「きつい」「いつ死ねますか」。時には「ありがとう」の言葉も。 「死なせて」のメッセージ後、危篤となった。男性を見つめ5分ほど手を握り、心が通っていたと思えた。「ちゃんとコミュニケーションはできなかった が、話すだけがコミュニケーションではないと知ることができた」 現在、看護学校に通 う。国語の授業の一環で随筆に投稿した。医療の道を志したのは留学中の経験だ。 緊急搬送され、会話もままならない自分に親身に接してくれた看護師にひかれた。自身も海外の人を助けられるようになりたいと考えてい る。 【山田宏太郎】
毎日新聞「はがき随筆」の2020年熊本年間賞に、熊本市の野見山沙耶さん(20)の「手を握る」(9月20日) が選ばれた。 熊本県内から投稿され20年に月間賞・佳作となった計15点から、熊本大名誉教授の森正人さんが選考した。
書く営みで考えを確かに 隣国の新型コロナウイルス感染症のニュースで明けた2020年は、世界的な流行が収まらないまま暮れました。類を見ない速さで開発されたワクチンの接種が今のところ唯一の光明で、社会全体が不安と困難に閉ざされています。とりわけ医療・介護の現場で働いている方々の苦労は、並一通りではありますまい。 はがき随筆の話題も、この感染症に関するものが目につきました。一見無関係であるかのような作品にも、その影を感じることがたびたびありました。また、昨年は熊本県南部が大きな災害に見舞われました。さほど被 害のなかった地域で も、避難や後片付けに 心を砕いた所が多かったようで、その経験を 綴った作品も目に付き ました。投稿者のなかには太平洋戦争を経験された方々もあって、 終戦記念日、開戦記念日の前後には、戦時下を回想する作品にたびたび出会います。 それらは、選び取った一事をもって鮮烈に印象づけるものあり、深く静かに心にしみわたらせるものあり、それぞれに味わい深いものであったと思います。 月間賞3編、佳作2編のうちから、熊本県の年間賞に選んだのは、9月度月間賞の野見山沙耶さんの「手を握る」。随筆と呼ぶにはやや重いテーマかもしれませんが、人の命と心、それに医療という仕事に向き合う姿勢が真率に表現されていると感じました。しかも、書くという営みが考えを整理し、より深く確かなものにすることを如実に示す好例。 森 正人
体験から看護師志す 看護助手として働いていた病院でその男性は服のすそを引っ張り、筆談を求めてきた。身のまわりの世話で多多く接していた高齢の患者。専用のノートには「きつい」「いつ死ねますか」。時には「ありがとう」の言葉も。 「死なせて」のメッセージ後、危篤となった。男性を見つめ5分ほど手を握り、心が通っていたと思えた。「ちゃんとコミュニケーションはできなかった が、話すだけがコミュニケーションではないと知ることができた」 現在、看護学校に通 う。国語の授業の一環で随筆に投稿した。医療の道を志したのは留学中の経験だ。 緊急搬送され、会話もままならない自分に親身に接してくれた看護師にひかれた。自身も海外の人を助けられるようになりたいと考えてい る。 【山田宏太郎】