白百合が咲き始めた。身を乗り出し香りを体に包み込む。それは戦後十数年後の一コマを思い出すからである。
昭和20年、熊本大空襲で家は丸焼け、幸せな生活は一変した。両親の苦労は言うに及ばず。苦労の途中にも白百合は咲き、写真を撮ることになった。白百合とともに表情穏やかな一重の着物姿の両親。兄弟姉妹もそれなりの服装で笑顔で納まっている。
戦後、母は種苗会社から花の球根や果物の苗木を取り寄せ、私たちに心のやすらぎを与えてくれた。白百合が咲くと写真とともに幸せを運んでくれる。
熊本市東区 川嶋孝子(80) 2019/6/8 毎日新聞鹿児島版掲載