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Channel: はがき随筆・鹿児島
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父の幽霊

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 もう幾昔も前のことである。夕食のとき母が笑いながら「今朝お父さんの幽霊が出た」と言う。「なんちな、いけな幽霊じゃしたか」「もう起きなくちゃとうとうとしていたら、父さんがオイも起きらんかち耳元で言ったのよ」と言う。
 父は典型的な早起きで、朝暗いうちに起き出し、いろりで茶を沸かし、刻みタバコをくゆらし、頃合いをみて母を起こすのが2人の習慣だった。幽霊が出て当然であった。「よか幽霊じゃしたなあ」と言うとうなずいていた。母もみまかった。2人で私たちを見守っていることだろう、父の命日が近い。
  鹿児島市  野崎正昭  2017/12/26 毎日新聞鹿児島版掲載

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