
線路わきの草むらを必死に嗅ぎまわるメリーの姿に驚き、思わず声をかけようとして、母に厳しく止められた。
先の大戦末期、空襲が激しくなった街中では犬を飼うことが禁止された。その日私たちはメリーを預けた老夫婦宅を訪ね夢の再会を果たした帰りだった。
子犬のときに別れたのに覚えていた。じゃれついて方時も離れない。大好きなおやつには目もくれずはしゃぎ回っていたが、帰りの列車の時刻も迫り、気付かれぬようにそっと駅に向かったのだった。
列車の窓から小声でさよならしたメリーの思い出は切ない。
鹿屋市 西尾フミ子 2017/10/24 毎日新聞鹿児島版掲載