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Channel: はがき随筆・鹿児島
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歩く

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 晩秋。庄川べりを歩いた。黒部峡谷を歩いた。上高地のカラマツの林を歩いた。冠雪した北アルプスが私を招いていた。
 グレーな高校生活の中で山歩きを覚えた。歩くとカッ、カッとなる登山靴の金具の音に不思議な安心感があり、確かめるように歩くのが好きだった。
 冬。雪の西穂高岳登山道に入る。誰も居ない。雪が舞う。ぜいたくにも白い道はどこまでも続いている。吸い込まれるように歩き続ける。このまま埋もれてしまいそうだ。歩くことが生きることであるかのように、ただひたすら歩き続ける。靴音を確かめながら――。
 出水市 中島征士 2016/1/24 毎日新聞鹿児島版掲載

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