誰も住んでいない実家の畳に座り来し方を思うと、万感の思いとともに、空気の寂れが室内を吹き抜けていく。 転居の度に、冷蔵庫の跡の、たんすの跡のほこりや染みに覚えた喪失感。変色した畳の傷みの記憶がもたらす暮らしの記憶の破壊。ガランとしたなかに家具が置かれ、家電類が配置され本だの衣類だのが空間を埋めると、自宅のぬくもりが醸し出されてくる。 神様が住まわれて家になり、暮らしがなくなるとお離れになり、家がなくなり寂れる。線香をともし亡き人の名前をそっと呼んでみる。 鹿児島県湧水町 近藤安則(67) 2021/5/3 毎日新聞鹿児島版掲載
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