「ぐつぐつ」と煮物に味が染みていく。味見をするが、何かが足りない。母の煮物の味とはちょっと違うようだ。秘訣があったのだろうか。母は一品一品丁寧に作っていたようだった。やはり愛情の深さが味の決め手になるのかもしれないと思った。 明るくて料理上手な母が逝って今年で33年目になる。好きな煮物をお供えしようとタケノコを入れて朝から作った。スイカもお供えできた。灯明に照らされて満足そうな母の笑顔が浮かび上がる。何かを話したいような表情にも見えてくる。思わず「お母さん」と呼んでみた。 鹿児島市 竹之内美知子(86) 2020/8/22 毎日新聞鹿児島版掲載
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