機械化になる前の農業は厳しく、雨の中、腰を二つに曲げて田植えをして炎天下での田の草取りは苦しみだった。 小学生の時は戦争まっただ中で、出征中の父の留守を母と5人の子がやっこ生きてきた。長女の私は笑顔を忘れた少女になった。青春時代の楽しい思い出もなく立ち止まる余裕もない旅路だった。90歳を目の前にして時間だけが猛スピードで遠ざかる。残りの時間を必死に泳ぐ。「忘却とは、絵空事だったのかなあ」と首をかしげながら。 どん底に生きても季節は平等にめぐってくる。炎暑の夏も、すず風も。熊本市東区 黒田あや子(88) 2020/8/1 毎日新聞鹿児島版掲載
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