
この地に越してきた32年前、自然が色濃く残っていた。息子は屋までクワガタを捕り、小川でメダカやエビをすくってきた。
お気に入りの竹林があり、新緑のトンネルに、古い葉が吹雪のように舞い散るのを見た。秋と春の同時の営みの美しさ。
10年後、団地の拡張が始まり、山が幾つも崩され、沼のような田もその竹林も消えた。
その時、造成地で50㌢ほどの地下茎を拾い、庭に植えた。忘れた頃、か細い筍が2本芽吹く。
あれから20年、10本の竹となり、教えもせぬのに春、葉を落とす。朝、若葉の先に涙をため、ちちはは恋し、と竹が泣く。
宮崎市 柏木正樹 2018/5/17 毎日新聞鹿児島版掲載