
庭に大好きな薄紫の春たつなみ草が咲いている。入院して4ヵ月で遠い世界へ旅立った母。4月で10年となった。毎日、食事の介助に通った。食欲がないという母に、好きなプリンとヤクルトを持っていった。「母ちゃんが亡くなったら頼むね」「わかった、心配しないで」「帰りは、右を見、左を見、前をしっかり見て運転しなさいよ」。車の中で涙があふれた。
生まれたばかりの光と風を浴び、サワサワとたつなみ草の穏やかな波音が聞こえる。「元気かね、頑張りなさいよ」。母の声。「ちょっと寂しいけど元気だよ。母ちゃんありがとう」
鹿児島県指宿市 外薗恒子 2018/5/6 毎日新聞鹿児島版掲載