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Channel: はがき随筆・鹿児島
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植物のフシギ

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 プランター3個に粗粒中粒細粒の鹿沼土を3層に敷きつめて庭の片隅に置いている。植物と遊ぶためだ。今、さし木したキンメヤナギとツバキは立派なつぼみを付ける。楽しいものだ。新芽が伸び始めたらキンメヤナギも輝くような姿に成長する。うれしい!
 庭木を剪定したら適当な枝々を必ずさし木にする。植物クローンと言えるが、その生命力に驚かされる。さし木には新芽の方が活着によいものと充実した枝がふさわしいものとがある。
 日当たりの良い所で毎日観察している確かな喜びがある。
  出水市 中島征士  2018/3/11  毎日新聞鹿児島版掲載

孫新聞

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   岩国市   会 員   片山清勝

 季刊の予定で始めた「孫新聞」。作るのが楽しくて月刊にし、ことし17年目。1月で200号になった。
 きっかけは、京都に住む孫娘が3歳になる少し前のこと。「平仮名が読めるようになりました」という嫁からのうれしい知らせがあった。離れて暮らしている孫が読んでくれたら思いが伝わるかな、とパソコンを使って作り、仮名ばかりの第1号を送った。
 小学校低学年までは学年に合わせた漢字ドリルを買い、学校で習う漢字を取り入れた。すると、次第に新聞らしくなり、作る面白さが増してきた。紙面も絵本形式から縦書きの新聞仕様に変えた。
 B5判の片面印刷は創刊以来変わらない。読めば5分とかからないが、出来上がるとほっとする。中学生までは学校に関わる内容も記事にした。しかし、孫の学齢が進むにつれ、時代の相違もあって状況に追いつけなくなった。最近は、私ら夫婦の近況や身の回りの内容が増えた。読めば孫一家も安心してくれると思っている。
 少し小さめの誕生だったが、大きな患いをすることもなく育ったのが何よりうれしい。今は大学1年、自転車通学している。そんな孫の顔を思い浮かべて作っている。ゲラを妻に見せる。たまに修正案も出る。夫婦で合意して仕上げる。
 ファイルは6冊目、楽しみながら作っているが、それにしてもよく続いたと自分でも思う。それでもいつかは終刊の時は来る。できる限り続けたい。

     (2018.02.02 中国新聞セレクト「ひといき」掲載)

自由なこころ

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2018年2月 2日 (金)
岩国市   会 員   上田 孝   

 最近、髪が薄くなってきたので、散髪はカミさんにやってもらっている。臨時の床屋と客はノーベル文学賞のカズオ・イシグロのような形を目指していて、出来栄えにはほぼ満足している。
 ところがである。朝は前髪を垂らすように櫛を入れているのに昼や夕方に鏡を見ると、ほとんどの場合七三分けに戻っている。現役時代に長年つけた癖が髪の毛を形状記憶にしてしまったのだろうか。サラリーマン時代の「常識的な身だしなみ」の象徴のようで何だか面白くない。髪形は解放されないままとしても、せめて心は自由な作家のようにありたいと思う。
   (2018.02.02 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

有効活用度

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2018年2月 3日 (土)
   岩国市  会 員   森重 和枝

 市のイベントに参加。会場の健康相談の所に、大勢の人が並んでいた。血管年齢、脳年齢が測れるというのが魅力で、受けてみた。
 このごろは、忘れることや覚えられないことばかりで、脳年齢の測定には大分ためらった。
 画面に1~50の数字がランダムに並ぶのを順番にタッチしていく。2回目は画面の数字が動く。両方とも結構早くできた。素早さ、脳の元気度、有効活用度が表示され、64歳と出た。
 予想外だ。総合評価欄に元気な脳が上手に使われていないとある。これからは、もっと脳の活用度アップを心掛けようと思う。
  (2018.02.03 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

ステレオの役目

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2018年2月 9日 (金)

  山陽小野田市  会 員   河村 仁美

 実家の居間に父が買ったステレオがある。買った当初は、めずらしがってクラシックのレコードをかけて楽しんでいたが、いつの間にか物置になった。

 もう40年以上そのままなので「捨てたら」と弟に言ったら意外な答えが返ってきた。「父が立ち上がる時につかまり、ドアまで歩く時の手すりになっている」という。おまけに座椅子が後ろに倒れていかないように背もたれの役割も果たしている。

 本来の音を奏でる役目とかけ離れてしまったが父の役に立っているようだ。今まで邪魔だと思っていたが、いとおしくなった。これからも父をよろしく。

(2018.02.09 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

1を重ねて孫史

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2018年2月11日 (日)
   岩国市   会 員   片山清勝

 孫新聞を作り始めて17年目、毎月「1」ずつ増えた号数は先月で200号になった。創刊号は孫娘3歳の時、読み姶めたという平仮名ばかりで作った紙面が今は懐かしい。
 京都生まれの孫は少し小さく生まれたが、大きな患いもなく育ったことがうれしい。今は、留学に備えての準備と授業で忙しい学生生活を送っている。
 ファイルは、時々の様子を思い出す孫史になっている。そして、単に「1」の積み重ね以上の重みを感じさせる。
 パソコンを相棒に毎号、楽しみながら、面白い充実した紙面にしようと頑張っている。

    (2018.02.11 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

宇宙の謎 解明を期待

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2018年2月21日 (水)
   岩国市   会 員   片山清勝

 宇宙の記事が載ると繰り返し読み、ロケット打ち上げの成功は、わが事のように喜ぶ。それで宇宙を理解しているのかと問われると、宇宙と同じ暗い空間に漂っているようだと答えるしかない。
 10日付セレクトの「ブラックホール ベール脱ぐか」の記事を面白く読んだ。ブラックホールは、非常に強い重力と高密度を持つ天体で、あらゆる物を吸い込み光も逃げられないという。
 そんなえたいの知れない天体の影を捉えるかもしれない。もし成功すればノーベル賞級の快挙になるという。
 その天体は天の川銀河の中心にある超巨大ブラックホール。世界6カ所の観測拠点で、高性能の望遠鏡を使って同時に観測し、成功すれば、ブラックホールの 「影」が真っ黒な穴として写り込むという。
 日本の画像処理技術の貢献で、今秋以降にはその姿を捉えた画像が見られるかもしれない。宇宙ファンの夢は膨らむ。

       (2018.02.21 中国新聞「広場」掲載)

ぐうたらの時間

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2018年2月23日 (金)
岩国市  会員   貝 良枝

 日曜日、娘2人と昼ご飯を食べる。そろって食事をするのは本当に久しぶり。
 長女は他県に住み、帰省してもほぼ友達と遊びに出かける。次女は美容師、日曜が休みに当たるのはまれだ。
 ホットプレートを囲んでお好み焼きを食べ、コタツにもぐる。「ぐうたらするのもいいねぇ」「お昼寝しようっと」と娘たち。おなかが満たされ、暖かい場所で丸くなって寝る。「あんたたち、子犬のようね」
 洗い物を済ませ、私も首までもぐる。「実家はいいねぇ」と長女も、このひと時を味わうように一段ともぐった。
  (2018.02.23 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

楽しい一人居

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 立春の日寒気の厳しい中、町内一周駅伝が行われた。近くの辻でご近所の方々とおしゃべりをしながら30分寒風を浴びた。最後の走者が通り過ぎるまで「それ頑張れ! チェスト!」と声援を送った。帰宅して熱いお茶で一服、やっと人心地がついた。
 一人居は気の赴くままだ。今日こそおひなさまをお出ししよう。格好の小箱を組み合わせてひな壇を造る。お内裏様、三人官女、そして左右大臣、プランターのストックを一輪、散歩路の土手で菜の花を5本ゲット。おかげさまで小さなおひな壇の周りにはもう春が整った。
  鹿屋市 門倉キヨ子  2018/3/22  毎日新聞鹿児島版掲載

毎日新聞鹿児島版掲載地方版の紙面見直し

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 毎日新聞は4月から、鹿児島と熊本、宮崎の3県の血を鵜版紙面を合体そせることになりました。特に若い人の新聞離れが続いている中で、どうやって新聞の発行を続けて行くか模索し、地方版の統合という方針を本社で決めました。

鹿児島版のはがき随筆はこれまで鹿児島の投稿者だけでコーナーをつくっていましたが、4月からは熊本や宮崎の投稿を含めて、3県で一つの作品しか載らないことになりました。

4月からは、隣県の方々の作品も、このブログでご紹介することになりますので、楽しみにお待ちください。

鹿児島の皆さんも、頑張って投稿よろしくお願いします。

by アカショウビン


グッド・ジョブ

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2018年3月27日 (火)
岩国市  会 員   樽本 久美

 「外国人に、書を教えるイベントがあるんだけど手伝ってくれない」との電話があった。以前も手伝ったことがあったので、すぐOKをした。久々の外国人との交流。「好きな文字は何?」と聞くと、いろいろな言葉が飛び出した。
 半紙にお手本を書き、名前をカタカナで書いてあげる。それを見て、子供も大人も真剣そのもの。「幸」「桜」「犬」「骨」「土足厳禁」などの言葉を。左手で書く人も多く、いろんな形の文字ができ、見ていて面白かった。褒めてあげると、うれしそうな笑顔。私まで笑顔になり、書くことの面白さを再発見した。
(2018.03.26 毎日新聞「はがき随筆」掲載)

子供時代

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 父が戦死したとき、わたしは1歳半、妹は母の胎内にいた。
 母、祖父母、まわりの者の愛に包まれて父のいない寂しさの入り込むスキはなかった。生身の父に触れ得ぬもどかしさを感じてはいても、それがかなしみだとは気づかなかった。
 父が恋しくて身をよじり、泣きたい日は訪れる。けれど泣けない。そんな自分に腹を立てる。八つ当たりして母を責める。「なぜ父さんを戦争に行かせたの」。母は絶句した。かなしみが意識の表に浮上したとき子供時代は終わった。父には夢があった。父の夢を奪った戦争について考えはじめていた。
  鹿屋市  伊地知咲子  2018/3/23  毎日新聞鹿児島版掲載

うれしい出来事

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 主人の一周忌で帰省していた子どもたちと昼食をすませた帰りの寒い道端に、車を押してしる老夫婦の姿があった。
 真っ先に気付いて車から降りて駆け寄った長男の話では、車が故障した上に携帯電話も忘れて困っているということだった。ご夫婦の車の鍵に付いていた行きつけの修理屋さんに電話をして現場に来てもらうようお願いをしてきたという。私たちの車に向かってうれしそうに手を振ってくださったのを見て、安心してその場を離れた。
 長男の詩全体の信説が、亡き夫への何よりの供養になったとてもうれしい出来事だった。
  鹿児島市 西窪洋子  2018/3/24  毎日新聞鹿児島版掲載

おやつ

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 カーリング女子のおやつタイムが話題になり、テレビで放映された。イチゴやバナナ、洋菓子などを食べている様子は、話し声さえも聞こえてくるようで、これが女子会の一面なのだろう。自分の高校生時代、5時ごろに帰宅して3杯のご飯をおやつ代わりに食べ、夜食も3杯食べていた時代があった。そして現在、自分はイギリス風のティースタイルとして3時ごろにはビスケット2枚とコーヒーのスタイルになる。おやつは人や時代の変遷により変わっていくものだと思う。おやつどころか食べ物がない人々が世界に存在することも忘れてはならない。
  鹿児島市 下内幸一  2018/3/25  毎日新聞鹿児島版掲載

ヘアドネーション

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 若い頃から髪を伸ばしては短く切ることを繰り返してきた。古い友人たちにはいつも長い髪というイメージがあるようだ。
 52歳で鹿児島市に来てからはショートヘアだったが、再雇用になったあと伸ばし続けた。夏はぎゅっと結び暑さに耐えた。
 65歳になりヘアドネーションについて調べ始めた。抗がん剤で髪をなくした人たちにかつらを寄付する団体があり、そこへ髪を提供する活動のこと。長さや切り方にはルールがあり、活動に賛同する美容室が鹿児島市内にも幾つかあるらしい。
 春になり仕事を辞めたら、思い切り短く髪を切るつもり。
  鹿児島市  本山るみ子  2018/3/27  毎日新聞鹿児島版掲載

カーリング

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 寒くてストーブ、甘酒、編み物の三点セットの日々に、ピョンチャンから聖火が飛んできた。目覚めた熊のように気合いが入りカーリングに夢中になった。ルールはうろ覚えだが時差もなくたっぷり見られ、ゲームに参加できるので面白い。作戦と駆け引き、そして正確なショットが勝敗を分ける。一投でハウスから3個出る音は暮らしのわだかまりも吹き飛ばされ気分爽快。お国柄で趣のある美男美女の表情がアップで迫り、若返りの秘薬になりそう。競技者の忍耐と努力に勇気とパワーをもらったオリンピックに感謝。次は北京だ元気でいよう。
  薩摩川内市  田中由利子  2018/3/26  毎日新聞鹿児島版掲載

カエルの吸い物

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 出水の江戸時代初期の地頭・山田昌厳についての講演会が開かれた。
 昌厳は今から350年ほど前の人で、小柄だったが士風を作興して出水兵児の育成に生涯をささげたという。昌厳が出水に赴任するとき、肝だめしに出水の若者たちはカエルの吸い物を出したという逸話が残っている。ところが、彼は顔色一つ変えず大きなカエルをぺろりとたいらげたという。
 今、出水の仲町のある食堂でカエルの吸い物がでる。私も1回ごちそうになった。
 3月には、短歌の仲間5人でまた行く計画を立てた。
  出水市  小村忍  2018/3/28  毎日新聞鹿児島版掲載

17年度のはがき随筆

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年間賞に伊尻さん
 母への切なる思い込め
 2017年に掲載された「はがき随筆」の年間賞に、出水市武本の伊尻清子さん(68)の作品「母の文章」(12月3日掲載)が決まった。また、はがき随筆など毎日新聞への投稿者でつくる毎日ペンクラブ鹿児島の会員が投票で決めるペンクラブグランプリに、鹿屋市新栄町の西尾フミ子さん(83)の「メリー」(10月24日掲載)が選ばれた。
【西貴晴】

ペンクラブグランプリに西尾さん


選評
 例年のように、12本の月間賞から、まず別府柳子さんの、劣等感の強い性格や傷害などを乗り越えての現在を描いた「大変身」(1月)、塩田きぬ子さんの、孫の服の墨汁の汚れをご飯粒でとってやった内容の「ひらめき」(7月)、小村忍さんの、「モンシロチョウの宿と夢」(9月)、若宮庸成さんの半睡の意識のままで、米軍の北朝鮮爆撃からの帰路かのジェット機音に驚いた「疑心暗鬼」(11月)、伊尻清子さんの、偶然見つけた母の文章で、子供から見たのとは異なる母親像に驚いたという「母の文章」(12月)の5本を候補として選びました。
 その中から「母の文章」を年間賞に選びました。「疑心暗鬼」の暗示する、現在の私たちにとって戦争の影のもつ不安は、非常に深刻なものだと考え最後まで迷いましたが、やや一般性に欠けるかとも考えました。その点で、「母の文章」が広く共感を得るかと考え、選びました。
鹿児島大学名誉教授 石田忠彦

自分史の意味込めて
伊尻清子さん
 たまたま自宅の机の中から見つけた母の同窓会報の中に母の思いがけない文章が載っていた。いま93歳になる母だが、当時は現在の伊尻さんと同じ年。そこには年とともに腰が曲がり、徐々に歩けなくなっていく我が身を嘆く切々とした母の言が並んでいた。
 母から愚痴を聞かされたことはない。母は勤めをやめてもシルバー人材センターで頑張っていた。今は寝たきりとなったが、四半世紀前の母はこんなつらい気持ちを胸に過ごしていたのか。「もっと大切にしてあげればよかった」という思いを込めて作品にした。
 伊尻さん自身は7年前の東日本大震災の年に67歳だった夫をがんで失った。「病窓から」と題し、闘病中の夫のことを書いたのが最初の投稿。同じペンクラブの会員をはじめ、多くの読者に作品を読んでもらっていると思うことが支えになった。
 「はがき随筆」というネーミングに魅せられ、今もはがきに定規でけい線を引いて作品をつくる。「その時々に自分が何を考えていたのか、自分史としての意味も込めてはがきに書き残していきたいのです」


「戦争」にこだわり
西尾フミ子さん
 受賞作は戦争末期、空襲がひどくなって飼えなくなった愛犬との別れがテーマ。元々栃木県の出身だが、兄が鹿屋の航空隊に配属になり、母も一緒に鹿屋へ。兄は戦死したが、そのまま鹿屋に残った。以前から戦争にこだわった作品が多く、「体験したものが残しておくべきだ。忘れる事は罪だと思う」とその理由を語る。
 1991年に鹿児島版ではがき随筆が始まったころかりの投稿ファン。57歳のころ、戦争で苦労した義母のことを書いた作品が初採用となった。10年後にペンクラブ鹿児島が発足したときからのメンバーでもある。「年に1.2本であっても書き続けていきたい」と意欲はやまない。


◆ 年間賞作品
 ある時、母の文章を目にした。母は筆まめで、よく便りをくれた。達者な字で、いつも近況を添え私たちの健康や安全を気遣うものだった。
 しかし、その文は違っていた。「足、足、足というほど足が痛く……」「走ってみたい」「誰か治療法知りませんか?」とある。25年前、同窓会の会報に寄せられたもの。その頃から腰が曲がり、つえをつき、ついには歩けなくなった。私は見守ることしかできなかった。
 娘には言えなかった親の思い、苦しみが母の年になり深く骨身にしみる……静かに時雨が降り秋が行く。


◆ ペンクラブグランプリ
 線路わきの草むらを必死に嗅ぎまわるメリーの姿に驚き、思わず声をかけようとして、母に厳しく止められた。
 先の大戦末期、空襲が激しくなった街中では犬を飼うことが禁止された。その日私たちはメリーを預けた老夫婦宅を訪ね夢の再会を果たした帰りだった。
 子犬のときに別れたのに覚えていた。じゃれついて片時も離れない。大好きなおやつには目もくれずはしゃぎまわっていたが、帰りの列車の時刻も迫り、気付かれぬようにそっと駅に向かったのだった。
 列車の窓から小声でさよならしたメリーの思い出はせつない。



はがき随筆

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 「はがき随筆」の掲載作品の中から、昨年の年間賞とペンクラブグランプリを先日紹介させていただきました。受賞者の話を伺っていて、たまたま共通した思いがあることに気づきました。
 一つは戦争へのこだわりです。ペンクラブグランプリの西尾フミ子さん(83)は、兄が通信兵として鹿屋の海軍航空隊に配属になったのをきっかけに「少しでも一緒にいたい」と願った母が、西尾さんら娘を連れて栃木県から鹿屋へ移ってきたそうです。やがて兄は戦死し、姉は鹿屋空襲で爆弾が降る中、防空壕の中で赤ん坊を出産しました。こうした戦争中の体験を「忘れることは罪だ」との思いでペンを握っていらっしゃるとのことでした。
 年間賞の伊尻清子さんの義母は25歳のとき、30歳だった夫が硫黄島で戦死し、その息子である伊尻さんの夫は父の顔を知らずに育ったそうです。ちょうど桜の時期、義母は霧島へ夫の部隊を訪ね、それが最後の別れになりました。それでも苦労を感じさせなかった義母の生き方を作品にしていらっしゃいます。
 もう一つ共通してしたのは、お二人とも60歳のころに夫をがんで亡くされたことです。ショックを乗り越え、やがて「自らの思いを多くの人に聞いてもらっている」という支えにつながったと話してくださいました。
       ◇
 毎日新聞は4月から鹿児島、熊本、宮崎の3県のニュースが互いに乗り入れる形で一つの地域面を製作することになりました。はがき随筆についても熊本、宮崎からの投稿が登場することになります。全体の掲載数をふやすため、3県の作品を集めた特集を週1回、右ページに新たに設けます。倍率は上がりますが、熊本や宮崎に負けない作品を少しでも多く掲載したいと考えています。引き続き皆さまのご投稿をお待ちしています。
鹿児島支局長・西貴晴

お姉ちゃん

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 母が施設に入所して6年目の春。昨年の秋までは笑顔で名前を呼び歓迎してくれた。今「お姉ちゃん」としか言えない。娘だと認識できているのか疑問だ。記憶を手繰り寄せられずに困惑顔の母。誰だか分からないのか? 
 間違いを訂正すると、ばつが悪そうだ。思い出せなくて残念なのは当の本人なのだから、これ以上、反応を探るのはやめよう。面会の度に試され可哀そうになった。識別できなくてもよしとしよう。現実を受け入れると少しは気が楽になった。あと少し頑張ってほしい。母の好きな沈丁花、優しい香りが心地よく辺りを包んでくれた。
  鹿屋市  中鶴裕子  2018/3/29  毎日新聞鹿児島版掲載
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